豊橋市の方も受託可能な浜松市の税理士の木野寿久です。
さて、
1.はじめに
以前は、気に留めなかったことなのですが、
関係会社間で相互に株式を持ち合う場合(相互保有株式)の
議決権について
相互保有の株価評価をした時から気になっていたことがあるので
深堀りしてみたいと思います。
2.相互保有対象議決権は、会社法でどのように定められているの?
議決権について会社法では、以下の通り定められています。
会社法及び会社法施行規則は、かっこ書きが多くて読みにくいので
幹となるところに下線をしました。
まずはこちらを読んでから、カッコ書きを読んでみると
いいと思います。
ちなみに、黄色のマーカー部分は、25%以上の議決権についての部分です。
会社法
(議決権の数)
第三百八条 株主(株式会社がその総株主の議決権の四分の一以上を有することその他の事由を通じて株式会社がその経営を実質的に支配することが可能な関係にあるものとして法務省令で定める株主を除く。)は、株主総会において、その有する株式一株につき一個の議決権を有する。ただし、単元株式数を定款で定めている場合には、一単元の株式につき一個の議決権を有する。
2 前項の規定にかかわらず、株式会社は、自己株式については、議決権を有しない。
会社法施行規則
(実質的に支配することが可能となる関係)
第六十七条 法第三百八条第一項に規定する法務省令で定める株主は、株式会社(当該株式会社の子会社を含む。)が、当該株式会社の株主である会社等の議決権(同項その他これに準ずる法以外の法令(外国の法令を含む。)の規定により行使することができないとされる議決権を含み、役員等(会計監査人を除く。)の選任及び定款の変更に関する議案(これらの議案に相当するものを含む。)の全部につき株主総会(これに相当するものを含む。)において議決権を行使することができない株式(これに相当するものを含む。)に係る議決権を除く。以下この条において「相互保有対象議決権」という。)の総数の四分の一以上を有する場合における当該株主であるもの(当該株主であるもの以外の者が当該株式会社の株主総会の議案につき議決権を行使することができない場合(当該議案を決議する場合に限る。)における当該株主を除く。)とする。
会社法第308条では、
株主は、株主総会で1株につき1個の議決権を有しますが、
一定の場合の株主は、議決権がないですよ。と、言ってますね。
その一定の株主のことを括弧書きで、法務省令に委任しています。
その株主の内容は、会社法施行規則第67条に書いてあります。
会社法施行規則は、条文を読んでも
何を言わんとしているのかわかりません。
特に25%以上の株主のところ・・。
こういう場合には、
コンメンタール系の本の意味解釈から類推して解釈していったほうがいいですね。
日産とルノーの議決権の関係の出来事が数年前にございましたが、
その関係を思い出して、会社法施行規則に括弧書きを入れてみました。
こうすると解釈しやいと思います。
会社法施行規則
(実質的に支配することが可能となる関係)
第六十七条 法第三百八条第一項に規定する法務省令で定める株主(日産)は、株式会社(ルノー)が、当該株式会社(ルノー)の株主である会社等(日産)の議決権の総数の四分の一以上を有する場合における当該株主(日産)であるものとする。
ルノーが日産の議決権の25%以上を有している場合には、
日産が保有するルノー株式の議決権は、0%という意味ですね。
3.相互保有の場合の議決権のパターンは?
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A社がB社の議決権をX%保有し、
B社がA社の議決権をY%保有する場合について
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それぞれのパターンごとに最終的な議決権を考えてみました。
簡単に考えるため、
前提としては、普通株式のみ、
相互保有対象議決権(25%以上の議決権の有無を考える手前)を判定の基礎として
最終的に議決権がどうなるのか判定していきます。
全部で9パーターンとなります。
1)A社がB社に対する議決権の25%未満の議決権を有し(X<25%)
B社がA社に対する議決権の25%未満の議決権を有する場合(Y<25%)
議決権の判定の結論は、
A社がB社に対して議決権のX%の議決権を有し、
B社がA社に対して議決権のY%の議決権を有することになります。
これは、難しいことを考えない通常のパターンだと思います。
2)A社がB社に対する議決権の100%未満25%以上の議決権を有し(100%<X≦25%)
B社がA社に対する議決権の25%未満の議決権を有する場合(Y<25%)
議決権の判定の結論は、
A社がB社に対して議決権のX%の議決権を有し、
B社がA社に対して議決権の0%の議決権を有することになります。
3)A社がB社に対する議決権の25%未満の議決権を有し(X<25%)
B社がA社に対する議決権の100%未満25%以上の議決権を有する場合(100%<Y≦25%)
議決権の判定の結論は、
A社がB社に対して議決権の0%の議決権を有し、
B社がA社に対して議決権のY%の議決権を有することになります。
4)A社がB社に対する議決権の100%未満25%以上の議決権を有し(100%<X≦25%)
B社がA社に対する議決権の100%未満25%以上の議決権を有する場合(100%<Y≦25%)
議決権の判定の結論は、
A社がB社に対して議決権の0%の議決権を有し、
B社がA社に対して議決権の0%の議決権を有することになります。
これは、9パターンの中で注目すべきところですね。
100%未満25%以上で中途半端に相互保有していると、
お互いの議決権が0%になってしまいますね。
これは、何か使えそうなツールですね。
5)A社がB社に対する議決権の100%の議決権を有し(X=100%)
B社がA社に対する議決権の25%未満の議決権を有する場合(Y<25%)
議決権の判定の結論は、
A社がB社に対して議決権の100%の議決権を有し、
B社がA社に対して議決権の0%の議決権を有することになります。
6)A社がB社に対する議決権の100%の議決権を有し(X=100%)
B社がA社に対する議決権の100%未満25%以上の議決権を有する場合(100%<Y≦25%)
議決権の判定の結論は、
A社がB社に対して議決権の100%の議決権を有し、
B社がA社に対して議決権の0%の議決権を有することになります。
7)A社がB社に対する議決権の25%未満の議決権を有し(X<25%)
B社がA社に対する議決権の100%の議決権を有する場合(Y=100%)
議決権の判定の結論は、
A社がB社に対して議決権の0%の議決権を有し、
B社がA社に対して議決権の100%の議決権を有することになります。
8)A社がB社に対する議決権の100%未満25%以上の議決権を有し(100%<X≦25%)
B社がA社に対する議決権の100%の議決権を有する場合(Y=100%)
議決権の判定の結論は、
A社がB社に対して議決権の0%の議決権を有し、
B社がA社に対して議決権の100%の議決権を有することになります。
9)A社がB社に対する議決権の100%の議決権を有し(X=100%)
B社がA社に対する議決権の100%の議決権を有する場合(Y=100%)
議決権の判定の結論は、
A社がB社に対して議決権の100%の議決権を有し、
B社がA社に対して議決権の100%の議決権を有することになります。
これは、会社法が嫌う相互持合の究極パターンです。
資本金の原資のお金は、どこへ行っちゃったんでしょうか?
グルグルまわって最初の株主の元へ・・。
中小企業だと、これくらいやってしまう会社はあると思います。
4.100%議決権を有する場合
上記3の6)、8)、9)をご覧ください。
6)A社がB社に対する議決権、
8)B社がA社に対する議決権、
9)A社がB社に対する議決権及びB社がA社に対する議決権
議決権の25%以上を保有されているのに、議決権が0%ではなく、100%となっている箇所があります。これには、理由があります。
会社法施行規則を一部の括弧のみ抜粋しました。
(実質的に支配することが可能となる関係)
第六十七条
(当該株主であるもの以外の者が当該株式会社の株主総会の議案につき議決権を行使することができない場合(当該議案を決議する場合に限 る。)における当該株主を除く。)
完全親会社が完全子会社の100%議決権を有し、完全子会社が完全親会社の25%以上議決権を有する場合に
議決権の25%以上保有の規制で議決権を制限してしまうと、完全親会社が完全子会社に対して議決権を行使する者が他にいなくなってしまいます。そこまで相互保有のインセンティブを削ぐ必要はないですよ、ということだと思います。議決権を有する者がいないときは、株主総会で決議をすることができなくなり、会社の運営が滞ってしまうからですね。
5.最後に
議決権は、
法人税、所得税、相続税、贈与税に絡む株価評価だけでなく、
法人税の同族会社の判定などで
重要なのですが、
詳しく扱っている書籍が少ないですね。
会社法の本を見てみましたが、
弥永真生著「コンメンタール会社法施行規則電子公告規則」(商事法務)が、
一番詳しく記載されています。
それでも、残念ながら
実務的には足らないですね!
もう少し、具体例をあげて記載してほしいと思っています。
なお、この記載についてのお断りを・・・。
私見を記載させていただいております。
この議決権についての真偽のほどは、
自己責任でお願いします。
最終的な判断は、
御自分でご確認ください。